ノマド・スタディ考。 〜「いつでも・どこでも」学ぶことの陥穽とその対策⑥〜

続いて、『私の早慶大合格作戦』を見ていく。

●早慶

『私の早慶大合格作戦 2012年版』

「それで行きの電車の中では英単語の勉強をしていました」「帰りは古文単語の『頻出古文重要語』(桐原書店)を使って単語を覚えていました。電車の中の時間を有効活用していましたね」(12 太田もえ)

「また、私は文化史が苦手だったので、自分でレコーダーに吹き込んで寝る前に聞いていました」(25 今村達也)

「(単語帳を」毎日のちょっとした時間を利用して覚える。
単語だけを30分や一時間かけて勉強することは退屈でなかなか集中できません。ですので、バス、電車などを待つ時間、寝る前の時間、起きた直後の時間などのちょっとした時間を使い、集中して単語を覚えることが効果的であると思います」(77 匿名希望)

「(漢文の参考書)ズボンのポケットに入るほどの大きさで持ち運びが非常に便利で、ちょっとした時間に勉強できます」(81 匿名希望)

「(注 参考書は)普通に学校で配布されるものを使っていました。1冊これ、と決めてとことんするのが好きで、お風呂や移動中など、どこへでも持ち歩いて時間を見つけて開いていました」(85 二木緑葉)

「参考書付属のCDはiPodに入れて学校への移動時間などの隙間時間を見つけて何度も聞きましょう」(96 岸利宣)

サブノートを作っていくという「この作業をたとえば一つの長文につき三個くらいのペースですすめていくと、一冊の自分のオリジナル正誤問題集が完成します。あとは、完成したら、電車の中や、ちょっとした隙間時間を利用して解いていってください」(108 早川智美)

「暗記が苦手でなかなか覚えられない、という方少なくないと思います。私自身そうでした。そこで私はICレコーダーを使いました。具体的には時代別に年号のゴロや重要用語をICレコーダーに吹き込み、通学の間に聞いていました。満員電車で身動きが取れなくても、耳で聞くことは可能ですし、五感を十分に使うことで記憶が鮮明に残るという点で効果的だったと思います」(109 早川智美)

「たとえば通学時間。電車が混雑するから勉強できない。だからしかたない。これはいけません。混雑して、単語カードもめくれないというなら、ICレコーダーを利用して、耳で覚える勉強ができます。自転車通学の人だって、赤信号を待っている間に単語一つ覚えられるはずです。他にも、携帯をいじっている時間や、テレビを見ている時間、ただダラダラ過ごしている時間など全て考慮すると、意外と、利用できる時間はたくさんあります。こういった、いわゆる隙間時間を大いに利用して、周りとの差を広げていってください」(『私の早慶大合格作戦 2012年版』:116 早川智美)

「7〜8時に起きて、朝ご飯を食べながら単語とか熟語みたいな、書く作業をしない勉強をやっていました。昼ご飯もひとりでそんな感じですごし、晩ご飯は家族と食べて、しばしの団欒、それから、勉強。寝るのは3時以降でした」(118-119 八木健太)

「例えば平日は朝4時半にマクドナルドで朝マックを食べながら勉強して、そのあと学校についたら学校の自習室で勉強して、学校の授業を受けていたんですけど、家では勉強しなかったですね。そのかわりに夜10時に寝て朝3時に起きて、自分の時間は保ちつつ勉強の時間もちゃんととっていましたね」(129 関友樹)

『私の早慶大合格作戦part1 2011年版』

「着替えるとき、ご飯や移動時間は、iPodに入れた『ターゲット1900』や『DUO』、それとICレコーダーに吹き込んだ日本史と古文単語を聴いていました。寝るときも、これを流したまま寝ます。お風呂はもちろん参考書持ち込み、トイレはプリントを壁に貼って、起きている時間はずっと勉強態勢です」(『私の早慶大合格作戦 2011年版 part1』85-86 二村萌)

参考書の紹介として「DUO セレクト CD(アイシーピー)1つの英文に重要事項がたくさん盛り込まれていて、かつおもしろい。移動中や寝る前に聴いていた」(91−92 二村萌)

「単語カードはただ『ターゲット』を写しただけでしたが、載っている意味は全部書きました。これを直前期は朝起きて、お昼の後、寝る前と一回ずつ回しました。
ノートは、過去問ノート(2回目以降、前回間違えた個所を確認できる)と自由ノート(無地の大きい自由帳に)暗記事項、まとめ、落書き、メモなどが書かれている)を主に使っていました。」(97 二村萌)

「ノート・カードを作ることで時間や体力を消耗したり、満足してしまったりするのが嫌だったので、ほとんど作っていません。参考書を何度もまわして、正誤のチェックマークをつけるくらいでした」(138 田中綾乃)

「時間とスピードを意識した勉強は、おのずと集中力につながるように思います。あと、個人的には、電車の中で勉強するのが今でも一番集中できる上に、通学などでは乗る時間が決まっているので、時間セットを体に覚えさせるのにもよいと思っています」(141 田中綾乃)

「私がこの膨大な単語量をこなすのに愛用したのは、『単語王2002』(オー・メソッド出版)という単語帳です。まずは毎日1unitのペースで1周します。このとき注意したいのが、1周し終わったころには最初のほうの単語を忘れてしまっていることです。空いた時間に以前やったページをこまめに見直すのもいいですし、覚えにくかった単語を単語カードに書きだしてそれを見直すのもいいでしょう(個人的には後者のほうがよかったのですが…)_(149 加藤勇人)

「単語帳やカードをいつやるか。これもなかなか難しい課題です。私はやり慣れた単語帳や単語カードは地下鉄やバスでやって、初めて手をつけるものは机でじっくりと時間をかけて取り組むようにしました。やはり初めて見る単語は慎重に覚えるべきです。単語を覚えられるか否かは、最初見たときに覚えたか否かに直結していると思います。最初に|単語を見たときに覚えないと、その単語に「難しい」というレッテルを貼ってしまい、その単語に対して苦手意識を持ってしまうからです。だから、初めて見る単語は慎重に時間をかけて覚えましょう」(149-150 加藤勇人)

「文法は先ほども説明したように、中澤先生の『Flash! Grammar Tips1・2』を使っていました」「その際、「My Tips」といって、小さめの手のひらサイズのノートに自分の苦手分野を項目別にまとめてピックアップすると、空いている時間にチェックすることができる|ので、効率良く覚えることができます。苦手分野は一日のうちいかに多く目を通すかで、すぐ克服できると思うので、触れる機会だけでも自分で作ってみてください」(177−178 鈴木美紀)

「直前期はその文化史のテキストをコピーして、サランラップに包んでお風呂の壁や洗面所の壁に貼り、髪の毛を洗いながら、髪の毛を乾かしながら、ひたすら食い入るように見ていました(笑)
細切れの勉強時間はあなどれません。いかに工夫して生活に取り入れるかも重要ですよ。どこでも勉強する時間を作り出してみてください。意外にも無駄にしている時間は多いものです。そこで差を少しでもつけましょう」(180 鈴木美紀)

『私の早慶大合格作戦 2011年版part2』

単語帳を「何度も繰り返しながら、よく忘れてしまう単語をノートなどに書いて、電車などの移動中にチェックなどすると、効率よく覚えられる。CDやフラッシュカードを使って、音読したながら暗記すると覚えやすくなる」(36-37 匿名希望)

「私は全教科、間違えた問題や正解していても解説を見て足り|なかったものをノートに写し、電車の移動中やバイトの休憩時間などこまめに見ていました。そもそも間違えた問題を次に出来るようにすること以外に、学力を上げる方法などないと思います」(154-155 猪又雅司)

日本史のゴロ「付属のCDを細切れ時間に聴くことで、さらに効果的に暗記することができました」(186 早瀬雄一)

『私の早慶大合格作戦 2010年版part1』

「また、私はク|ラスのDSブームにのっとって、山川出版社の日本史ソフトを買って、持ち歩いてヒマなときにやりました。常に接しているという心がけが大切だと思います」(75-76 大岩千紗)

『私の早慶大合格作戦 2009年版』

予備校ある教師の「授業はスピーディーで、ムダなものが省かれている。この何十枚もあるプリントを、私は2年間かけてじっくり覚えていった。あるときは縮小コピーしてポケットサイズにして、ちょっとした時間に見直した」(101 野村明義)

世界史の参考書について「何度もこの中のゴロには助けられました。もう一つオススメなのが、授業を録音したものを、食事中、歯みがき中などに聴くことです。|私は夏や冬に代ゼミのフレックスサテライン(諸岡先生)を取って、カセットに録音して常に聴いていました。英語と同じで、やはり暗記は何度も触れることがいちばんです」(187-188 石川昇)

『私の早慶大合格作戦 2008年版 part1』

英単語「覚え方としては、別売りになっているフラッシュカードで一日1~3ユニットを一回5・6個ずつ休み時間などに少しずつ覚えていき、次の日の朝にもう一度通して見ると効果的です」(26 猪口翔)

『私の早慶大合格作戦 2007年版 part1』

「②(注 英熟語の参考書)は暗記の助っ人というのがあって、覚えづらい熟語もわりとスラスラ入りました。CDも買い、電車の中で聞いていました」(49 石渡健輔)

「ちなみに憲法は夏休みに毎日お風呂で暗唱して覚えました。政経はこの方法で模試では最高偏差値77までいきました」(85 市原弘規)

「私はiポッドにリスニングのCDをすべてまとめ、移動時間中に聞いていました。単語帳の音読CDなどもiポッドに入れておくと持ち運びが便利ですし、無駄な時間を節約できます」(126 石井誠)

「私はこの問題集を、いつもフラッシュカードと一緒にポケットに入れていました。空いた時間、休み時間や待ち時間にも勉強できるようにです」(176 村山天生)
古文単語帳「これはCD付属のもあり、私はMDに入れ、自転車での通学、通塾時にずっと聴いていました」(180 村山天生)

ここまで『私の東大合格作戦』と『私の早慶大合格作戦』を見てきた。
さて、ここから見えてくるのは受験生の「ノマド・スタディ」の手法の特徴である。

1,ノマド・スタディは「情報カード」「サブノート」「ミニノート」に暗記事項を書くことによって為される行為である。

2,東大合格者よりは早慶合格者のほうが「ノマド・スタディ」記述が多い。

3,2はブルデューの言うところの「ディスタンクシオン」の違いである。つまり、一見泥臭さのある「ノマド・スタディ」(=いつでも・どこでも学習)記述は「スマートさ」のある文化貴族である東大合格者の合格体験記では「敬遠」され、逆に早慶合格者には自己の努力資本を示すものとして賞賛される結果となる。

この1〜3から読み取れるのは、「ノマド・スタディ」の格差性である。東大合格者のほうが「スマート」な「ノマド・スタディ」記述となっている。

参考文献

浅田彰, 1983, 『構造と力――記号論を超えて』勁草書房.
『千のプラトー』
中谷健一, 2010, 『「どこでもオフィス」仕事術――効率・集中・アイデアを生む「ノマドワーキング」実践法』ダイヤモンド社.
和田(1994):受験勉強マニュアル
斉藤日出治, 1999, 『ノマドの時代[増補版]――国境なき民主主義』大村書店.
高島徹治(2007):『もっと効率的に勉強する技術!』 すばる舎 (2007/7/20)
佐々木俊尚, 2009, 『仕事をするのにオフィスはいらない――ノマドワーキングのすすめ』光文社.
竹内洋(1991):『立志・苦学・出世』講談社。

ノマド・スタディ考。 〜「いつでも・どこでも」学ぶことの陥穽とその対策④〜

5,「スキマ時間」記述

ノマド・スタディに関わりが深いのは「スキマ時間」である。何かと何かの「間」の時間に「発見」されるのが「スキマ時間」である。その「スキマ時間」の「活用」こそ、「いつでも・どこでも」学習するノマド・スタディにとって必要な「資源」である。
では、この「スキマ時間」について、どのようにこれまで説明がなされてきたかを見てみよう。
「スキマ時間」で始まる書籍を国会図書館データベース(NDL-OPAC)で検索してみた。すると29件の記述が存在した(2011年8月6日参照)。最も古いものは1996年発行の『奇跡の「スキマ時間」活用術』(安田賀計 PHP研究所)である。

29件のうち下の2冊は授業のなかでの教員の実践のヒントに繋がるものである。

・パッと使える「すきま時間の遊び」 / 家本芳郎. — フォーラム・A,2006.4. — (学級担任テーマブック)
・学習密度が濃くなる”スキマ時間”活用レシピ50例 / 森川正樹. — 明治図書出版, 2010.8

また、次のものはゴルフの上達を志向したものである。

・スキマ時間でスコアが伸びるゴルフ上達トレーニング / 田中誠一. — 日本経済新聞社, 2003.9. — (日経ビジネス人文庫 ; 190)

これら以外はすべてスキマ時間に資格のためなどに勉強を行なうことを志向したものであった。なお、NDL-OPACで「隙間時間」を検索すると該当するものは見つからなかった 。
つまり、「スキマ時間」というものは資格勉強ないし受験勉強を行なうために「発見」され、活用されるものなのである。あるいは忙しいビジネスマンのゴルフ練習のため、ないしは学校において教員がちょっとした授業時間の「スキマ時間」を有効に活用するために用いられている言葉なのである。

映画『LOOPER』(ルーパー)(2012, アメリカ)

photo主人公ジョーのもとには、30年後の世界の人間が「殺したい」相手が送り込まれる。

懐中時計を見て、決められた時間・場所に送り込まれる相手を単調に撃っていく。

そんな仕事。

30年後の未来は犯罪捜査が発展し、死体を見ると犯人がわかるようになるという。
だからこそ、殺害を過去に「アウトソーシング」するのだ。

この「アウトソーシング」先の職業を「ルーパー」という。

〈ループ〉してきた相手を撃ち殺すからだ。

ルーパーたちには「引退」がある。
30年後も自分が生きている場合、いつの日か自分で未来の自分を撃ち殺すこととなる。
この場合、「ループを閉じる」と呼んでいる。

ある時、ジョーもついにその「ループを閉じる」日がやってくる。

しかし、ジョーは撃ちそびれる。

組織からの追求を逃れるため、ジョーは未来の自分を殺害を決意、探しまわっていく…。

この映画のテーマは文字通り「ループ」である。

幼少期の虐待や「捨てられた」経験および生育環境。
これがその少年がおとなになった時、犯罪者になる・ならないを決める重要な「独立変数」となる。

要は、幼少期の生育環境こそがその人物の行末を決めるのだ。
親から虐待や「捨てられた」子どもは愛し方を知らない。
その結果、彼らは自分の子どもたちにも同じような接し方をしてしまう。

そういう意味で、子育ては「ループ」している。

この映画の裏テーマはこの「ループ」をいかに断ち切るか、にある。

その断ち切り方をここでは描かないが、1つの「贈与」としての「死」が「ループ」を断ち切ることとなっている。
子育てには「贈与」としての「犠牲」が必要な側面があるのである。

この映画を教育学的に見ることは非常に意味があるだろう。

子どもの持つ暴力性が、「超能力」として現れ、その能力を制御するために親の教育が必要である、と整理することが出来る。

…ただ、見終わった後冷静に考えると、「じゃあ、あれは誰が殺したことになるんだろう?」という、タイムトラベル系映画定番の疑問が頭から離れない。

映画『LOOPER』

ノマド・スタディ考。 〜「いつでも・どこでも」学ぶことの陥穽とその対策③〜

4,「スキマ時間」活用としての「いつでも・どこでも」

日本ではいつから「いつでも・どこでも」の学びが呼びかけられるようになったのであろうか。つまり、場所・時間を超えて常に勉強し続ける態度が、いつから賞賛の対象になったのだろうか。
受験生のメンタリティとして、電車の中でも信号待ちの間でも、つねに学習をすることは「良い」ことだとされている。この考え方の先には、「何もしていないことは悪」とされ、イヤホンをつけ「耳から」のヒヤリングや暗記事項を吹き込んだ内容の再確認をすることが称揚される。
現代の「苦学」について、竹内(1991)は「受験のポストモダン化」を述べる。楽しく勉強するということが受験生の間で80年代以降言われるようになったとの指摘である。しかし、それは80年代以前との比較から言えることではないか。受験生のリアリティーに取って、「昔」と「今」の比較は関係がない。必死に学ぶという態度を取り続ける(あるいは演じ続ける)ことが要求されているのではないだろうか。
つまり、竹内の指摘する「苦学の終焉」はあくまで過去と比較した上での概念であって、受験生に取っては常に「苦学」が要求されてきたのではないか、ということである。しかし、当然過去と現在とでは生活水準も文化水準も大きく異なる。単身で上京して専門学校に入り、「大学」への入学に憧れた戦前期の学生の「苦学」と現在の受験生の「苦学」とは全く意味合いは異なる。どちらの時代にも楽に受験をやり過ごそうという態度を取る者はいたであろうし(これは竹内のいう「受験のポストモダン化」の形態である)、その逆に必死になって勉強をするという意味での「苦学」を行うものもいるであろう(竹内の言う「苦学」である)。どちらの時代にも、いろいろなメンタリティの人物は存在したわけである。そのため、「苦学」する者にとって、「苦学」の内容は変わったとしても、「苦学」をしているという意識には共通点があるのではないか。
戦前の「苦学」語りでは「働きながら」ということがつきまとった。あるいは資格試験合格に向け、必死で「頑張る」姿に賞賛が集まった。その姿が現代においてはイヤホンを耳につけてのヒヤリングの実践や、単語カードをめくる姿、「ノマド・ワーキング」のように読み逃した記事をスキマ時間でスマートフォンで読む姿として現れているのである。
本稿でノマド・スタディについて分析を行うのは、現代のノマド・スタディを行う者はかつての受験生の「苦学」のメンタリティと近い場所にいるのではないか、との問題意識からである。「いつでも・どこでも」という非-場所性というものは、ノマド式に拡散するネットワークの概念である。これはツリー状の権力体型からの離脱でありながら、個々人が何の寄る辺もなく常に努力し続けるという能力主義を礼賛する発想でもある。「いつでも・どこでも」学ぶことが自発的であれば問題はない。しかし「いつでも・どこでも」学ぶべきだという規範が成立することは、「いつでも・どこでも」学ぶことを欲しない主体に対し暴力として機能する。だからこそ「苦学」なのである。
一例としては、蒋麗華(2010)『顧客創造「1日15分メモ」』(プレジデント社)がある。これは「日常の仕事時間のなかに、10〜15分の顧客視点で未来志向のポジティブ思考時間を組み込み、リアルタイムにそれを共有していく」(160)マーケティング法を紹介している。ワークシートを用意し、顧客の視点から企業を見直し、よりよいマーケティングを行なうことを志向している。他の文献との違いは、他の文献が自分が「スキマ時間」を有効に使えるようにすることを志向しているのに対し、本書では従業員に「1日15分メモ」を取らせることを志向している点という点が特異なものとなっている。である。
受験生の「苦学」言説は昔も今も変わらない。その中でも人びと(受験生を含む)がハイテク機器たるスマートフォンやi-Padを操作するなかで常に学び続けることが要求される態度は変わらない。人びとは「いつでも・どこでも」学ぶべき、との規範から逃れることが難しくなっている。

ノマド・スタディ考。 〜「いつでも・どこでも」学ぶことの陥穽とその対策②〜

3,「いつでも・どこでも」

「いつでも・どこでも・だれでも」学べる、というのは法政大学 通信教育学部のスローガンである。法政大学は1947年、日本にいて最初の遠隔通信教育を実施する大学となった。
「いつでも」というのは、仕事や家事の合間が含意されている。「どこでも」とは大学所在地でない場所(田舎でも島嶼部でも海外でも)でも学習ができる、ということである。「だれでも」とは入学資格があるものなら専業の学生ではない者でも学べる、という意味である。
この3要素のうち、「いつでも・どこでも」学ぶということを「ノマド・スタディ」と呼ぶことが出来る。机や学校でなくても「いつでも・どこでも」学ぶことを、ドゥルーズ/ガタリの「ノマド」を用いて「ノマド・スタディ」と読んでいく。
「いつでも」とは、ノマド・スタディの場合、24時間どこでも空いている時間に学べるということが示唆され、「どこでも」とは自宅でも通勤電車の中でも喫茶店でも布団の中でも学べるということである。特定の場所で学習をするということではなく、場所性が限りなく消えて行く中での学習である。

逆に考えれば、ノマド・スタディの場合、常に学習を行うことが想定される。その象徴が「スキマ時間の活用」だ。信号待ちや電車内などの貴重な「スキマ時間」を、怠惰に過ごすことは想定されていない。

現代ではインターネットを利用したクラウド・コンピューティングの技術をもとにしたノマド・スタディも多く存在する。しかし、こういった技術ができる以前から、学習者は「いつでも・どこでも」という学習を行ってきていた。

象徴的な例は、受験生がよく使う「単語カード」ないし「情報カード」である。和田(1994)において、分からない問題・覚えるべき内容はカードに転写し、常に持ち歩いて「暗記」してしまうことが想定されている。また高島(2007ほか)においても同様の指摘がある。学習において「スキマ時間」は開拓される対象なのである。常に学習する態度が要求される。中谷彰宏は『大人のためのスピード勉強術』において〈ペンを自分の身辺にばら蒔いておくこと〉をアドバイスする。それはアイデアが降ってきたときにすぐに書き留めるため、であった。これは学習とは少し異なる可能性があるが、広い意味の知的生産ということになる。
現在、各種自己啓発系ハウトゥ本において、学習法に関するものが多く存在する。「耳から」の学習、「大人のための勉強法」と、多く挙げていくことができる。いずれも「いつでも・どこでも」学ぶ態度が賞賛されるものとなっている。

ビジネスに「行動観察」を!〜松波晴人『ビジネスマンのための「行動観察」入門』講談社現代新書 2011〜

これ、2013年に読んだ中で久々の当たり本(ある意味当り前)。

行動観察とは「経験を科学すること」(4ページ)。

たとえば、売上の上がらない銭湯。ビールの売上を、カンタンな工夫で59%上げる方法がある。

どうするか?

サウナのテレビの下に、ビールのポスターを貼ればいい(93)。

サウナでは皆、なんとなしにテレビを見る。

その下にビールのポスターがあると、思わず飲みたくなる。

行動観察は、人間の仕草・ふるまいを観察し、そこから新たなヒントを掴む手法なのである。

そのためには観察のほか、社会学や心理学などの知見を行うことが必要なのだ。

行動観察を生かしていくと、たとえば「できるセールスパーソン」のしゃべりや振る舞いを分析し、彼ら/彼女らがコミュニケーションの際に何を行なっているかが見えるようになる。

著者がまとめた「優秀な営業マンと普通の営業マンの違い」(132)はこんな感じ。

 ①優秀な営業マンは、お客さんとのファーストコンタクトを非常に大事にしている

②優秀な営業マンは、自分よりお客さんのほうが話す時間が長い

③優秀な営業マンはは、お客さんをよく観察して、個別のお客さんのニーズに合う提案をする

④優秀な営業マンは、お客さんに何か必ず親切なことをする(132)

他にも、行動観察をすることで、職場のトラブルや人々のコミュニケーションの問題がうまく解決していくことができる、という。

これ、私にとっては非常に「グッと来る」ものである。

社会学をやっていたため、フィールドワークも参与観察も、日常的にやっていた。

文章を書いたり、概念を分析したり。そんなことを常にやってきたので非常に親和性の高い手法である。

特にいいのは「現場」を大事にする点。

現場に行き、「走りながら考える」「考えながら走る」を実践し、

ビジネスに直で役立つ「ソリューション」を出していく(要は実学的、ということ)。

…というわけで2013年はこの手法を学び実践・応用するのを目標としたい、と思っている。

行動観察の鉄則。

 ①必ず現場に行って、人間の行動を観察すること 適切な解釈、よい問題解決法(ソリューション)を得るためには、実態を深く知らなければならない。

②根拠のあるソリューションを提案すること ソリューションは、単なる「勘」で出すのではなく、「こういうことが科学的にわかっているから、この実態はこう解釈される。なのでソリューションはこうしたほうがよい」と論理的に説明できなければならない。(13-14)

 

行動観察をする人間は、最初は現場のプロに学ぶ弟子なのだが、最後はそのノウハウを解き明かして他の人に伝える役割をすることになる。つまり、短期間に弟子から師匠にならなければならない。(85)

この本は隅々まで読み飛ばせないほど、いい「ネタ」に詰まっている。

例えばお金を渡す際に少し手が触れるほうがお客の満足度が上がるなど、「あ、そうだったんだ」という気付きが多かった。

…著者が元・プロ野球選手の古田に似てるなど、「どうでもいい」情報も多いけど。

 

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大越俊夫『6000人を一瞬で変えたひと言②』サンマーク出版 2005年。

不登校の子どもと日常的に関わっている人は「言う内容」が他の人とは異なっている。

日常的に子どもと寄り添い、必要な支援をするため、小難しい理論は使用しない。

「励まし」を日常的に行なっており、ネガティブな発想になりがちな不登校生に元気を引き出している。

学校教員をやっている私のような人間にとって、もっともっとこういった人から学ばねば、と思っている。

『6000人を一瞬で変えたひと言②』の著者・大越俊夫もそんな一人。

神戸や広島・東京などで「師友塾」というフリースクールや通信制高校を行なっている人物。
(…まあ詳しく書いてしまうと私の勤務先のライバル校、ということになるんだけど)

フリースクールのスタッフは、学生ボランティアも含め「たくさん」いる。

でも、大越のように30年も続けられる人はそうはいない。

大部分の人は「生活」や「家族」、あるいは自分のメンタルを持ち崩し、辞めていく。

そんな意味で「同業者」として、尊敬をする。

「不登校して、私を訪ねてくる子どもたちが一瞬にして変われるのは、なぜか。
彼らが一瞬にして変わるのは、ほかでもない本来の「自分」に戻るからだ。
今まで不本意に、「別人」のような生き方を強いられていた彼らが、元の「自分」を見つけたとき、そこには一種、劇的な「変化」が起こる。「自分に戻る」という大変化が起こるのだ。
見も知らぬ「別人」になるのではない。不本意な「別人」から「自分」に帰るだけだから、きっかけさえつかめば一瞬にして変われる。
そして本来の自分に戻ったとき、身も心も安定する。はじめて安堵の表情を浮かべ、どんどん元気になっていく」(6)

「努力して運がつくわけではないが、その運は努力によってしか引き寄せられない。だから、理屈抜きに努力するしかない」(35)

「自分の夢が親に理解されるようになったら、「私もそんなに堕ちたか」と思いなさい」(45)

「人と比べないのは、自信があるからではない。
比べないから、自信が出てくるんだ」(49)

「理解で人は変われない。信じることでしか変われない。人を理解するとか、理解できないとかよく言うが、理解する力なんて、大したことではないのだ」(82)

「人は、人の役に立つことに出会った時にこそ、本当の出番を迎えるのだ」(88)

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